お札(ふだ)
そのお札は、サムの住む村に突然やってきた。
一人の見知らぬ土地の人がやってきて
サムの村の一軒一軒を訪ね、
家にあるいろいろな品物を見ながら
これをゆずってくれといって そのお札を出した。
そのお札は薄い見たこともない材料で作られていて
人の顔と奇妙な模様や印がついていた。
そしてその人は、これは色々なものに変わり 望みの叶う
不思議な力を持つお札だから、たくさん集めると良い
といって自分の欲しい物と取り替えていった。
サムは このお札のどこにそんな力があるのかと
不思議に思って、なでたり日に透かしてみたりしたが
良く分からなかった。
しかし、何日たってもそのお札が何かに変わったり、
不思議な力を出す様子は見えなかった。
それから何日かたって、また別の人がやってきて
同じように 何か珍しいものはないかと
サムや隣の家々を訪ね、またあのお札を出した。
サムは欲しいものを分けてやったが
そのお札はいらないと 受け取らなかった。
隣の家々では、その客のすすめでたくさんの物を
そのお札と交換した。
そしてその客は、そのお札を
遠くの 人がたくさん住んでいる町という処にもっていけば
好きなものが手に入ると教えた。
村の家々では、男たちがそのお札を持って
遠くのその土地へ出かけて行った。
そして、見たこともない珍しい品々を持って
村に戻ってきた。
そして、そのお札のことを 何にでも姿を変える
不思議な力を持ったお札だと口々に言った。
それからのことだ サムの村がすっかり姿を変えたのは。
村人たちはそのお札を持った客が来るのを心待ちにし、
客が欲しがりそうなものばかりを目の色変えて作り始めた。
村の畑は荒れ出し、作物の収穫は次第に減っていった。
サムはわけが分からなかった。どこかがおかしいと感じた。
遠くから客が来るたびに村人は我先に走って
その客を自分の家に引き入れた。
そして、たくさんのお札を手に入れた村人は
いそいそと遠くの町に出かけて行った。
村人たちなかには、待ちきれずに
作ったたくさんの品物を持って町まで出かけるものがでてきた。
また、何人かの村人はそのまま帰ってこなかった。
たくさんのお札を手に入れた者は たくさん物が増え、
もっとそのお札を増やそうと そのことだけに一生懸命だった。
やがて、村人たちの間にそのお札をたくさん持つものと
そうでない者との区別が生まれ、その開きが増すほど
村人の間の心は冷え、互いの絆が細く干からびていった。
村人たちに諍(いさか)いが起こるようになった。
そのお札が欲しくてたまらず、人に借りたものは
返せないときの約束に家や畑や家畜を失った。
そのお札や、他所の家の者が手に入れた品々を盗みに入る者もあった。
そして諍いはついに殺し合いにまで突き進んだ。
サムは思った
あのお札のせいだ。きっとそうだ
何にでも姿を変えるといったあのお札は、
いつか悪魔に姿を変えるのだ
いや、もともと悪魔の力をもった札に違いない
みんながあのお札に魅入られたのだ
あんな小さなお札に
芋や麦や家畜や、壷やお面、羽飾りなどとおなじような
もともと真っ当な値打ちがあるわけがないのだ。
あのお札をたくさん集めればいいことがあると言われ
みんな頭がおかしくなったのだ。
あんなお札に魅入られる人間の心が サムは悲しかった。
サムの村はもう、もとには戻らなかった。